サヤ取りを実践するにあたって、2つの銘柄に相関関係があることが絶対条件です。

ここではこの相関に関しての仕組みとその扱い方を実践的な例を交えながら紹介したいと思います。


そもそも相関関係とは2つのものが関わりあい、一方が変動すれば、それに応じてもう一方も変動するいうもので、例えば東京ガソリンの価格が上がれば、中部ガソリンの価格もそれに応じた分上がっているというものです。このように2つの銘柄が同じ方向に動く関係を順相関があるといいます。逆に通貨ペアの相関関係に多いのですが、USドルが下げればスイスフランが上昇するかのように、一方の動きに対して逆の方向に動く関係を逆相関があるといいます。

この相関関係の強弱を示す指標として統計学において相関係数というもがあり、−1から1までの値をとります。この相関係数が”1”に近づけば順相関の関係があり、”−1”に近づけば逆相関の関係があり、また相関係数が”0”に近ければ無相関であることと解釈されます。


XとYの相関係数"r"を求める式は以下になります。



上式のV(X)、V(Y)はX,Yそれぞれの分散を表し、Cov(X,Y)はXとYの共分散を表します。

共分散とはXとYがそれぞれの平均に関連してバラツク尺度を言い表しています。

ここでのV(X)、V(Y)、Cov(X,Y)の数式の定義は以下になります。

   


Cov(X,Y)の値がプラスならXとYの変動が同傾向、マイナスなら逆傾向の関係があります。


また分散V(X)と共分散Cov(X,Y)にはいろいろな性質と重要な公式があります。特に下の2つの公式は重要ですのでその性質を覚えておく必要があります。


  ・・・(1)


  ・・・(2)


(1)式はある銘柄Xを1枚(a=1)持つときのボラティリティV(X)に対して2枚(a=2)持つときのボラティリティV(2X)は4V(X)となりその変動リスクは4倍になるということを意味します。Xの係数はその分散をとった場合、単純にa倍になるのではなくて、2乗に比例することになります。

(2)式はある銘柄XとYのポジションを持ったとき、そのボラティリティV(X)+V(Y)は個々の分散値(X)、V(Y)を単純に足した値にはならず、それに共分散Cov(X,Y)を加えて等式が成り立ちます。


サヤ取りを実践する場合、相関係数が高い低いで仕掛ける銘柄の組み合わせを考えるのも大切ですが、その組み合わせにおける分散の加法性をみることも大事なことです。

相関係数なんかを調べる際には、いろんな銘柄を横軸と縦軸にとった相関係数行列を作成すると調べやすいのですが、サヤ取りを実践する場合はそれに共分散行列も一緒ににして、相関・分散・共分散行列といった表を作成すると便利です。


補足ですが為替でサヤ取りを行う場合、USD/JPY買い、EUR/JPY売りといった組み合わせがありますが、これは両方にJPYが絡んでいるためEUR/USDを売るのと同じではないかと感じられる方もいるかと思います。

実際にはUSD/JPY買い、EUR/JPY売りとするサヤ取りは、EUR/USDを売るのとはある条件の時を除き別の動きとなります。

ここでいうある条件の例えとして、EUR/USDが1.5USドルであったとします。ここで1.5USD/JPY買い、EUR/JPY売りというサヤ取りとEUR/USDを売るということが同じ意味になります。つまりUSD/JPYとEUR/JPYのサヤ取りはポジションを建てるときEUR/USDの価格の比率で建てない限りEUR/USDと同じ動きにはならないことを意味します。


最後に組み合わせを選択した実践例を1つ紹介します。

ここでは運用例として説明のしやすい組み合わせを直感的に選んだだけで、推奨する組み合わせではありませんのでご注意お願いします。

まず相関関係の高い組み合わせとしてEUR/USDとZAR/JPYを例に説明したいと思います。

この組み合わせ相関係数は”-0.835”とまずまずの高い逆相関の関係があるといえます。この場合双方の通貨ペアが下の表のように反対の方向に動く傾向があるため、EUR/USDロングとZAR/JPYロングの組み合わせもしくはEUR/USDショートとZAR/JPYショートの組み合わせが有効になります。仮に相関係数がプラスの場合は片方をロングもう片方をショートにすることは言うまでもありません。


  


次にこの組み合わせの組込み比率を決めましょう。ここで分散と共分散の公式が必要になってきます。

組み合わせのボラティリティを最小にするには、V(aX+bY)が最小になる"a"と"b"の値を求めればよいということになります。

求め方は最小2乗法といわれる方法で、上の(2)式を"a"と"b"で偏微分して"=0"と置くやり方で解きます。

また数学的証明は省きますが"V(aX+bY)"はV(X)*V(Y)≧Cov(X,Y)^2の関係から必ず0以上の値をとります。


   


@式、A式から"a"と"b"について整理すると以下のような関係式が出来上がります。また”a”と”b”を比率で表すため”a+b=1”という条件を付け加えます。


   


BとCの連立方程式を”a”と”b”について解くと


   


となり、この”a”と”b”がV(aX+bY)が最小となりうるV(X)とV(Y)の組み込む比率を意味します。


さて実際に上の例で組み込み比率を計算してみましょう。

変数はX=EUR/USD、Y=ZAR/JPYに割り当てます。通貨ペアの分散・共分散行列から


   V(X)=68.867  V(Y)=2.8   Cov(X,Y)=-11.602


になってますので、組み込み比率は


   a=0.152  b=0.848


となり、求めるべきV(aX+bY)の最小値は


   V(aX+bY)=V(0.152X+0.848Y)=(0.152)^2 * 68.867 + (0.848)^2 * 2.8 + 2 * 0.152 * 0.848 * (-11.602) = 0.614 


と求まります。これは”X”に対して”Y”が”a:b”の比率で組み込めば、最もボラティリティが抑えられるということになりますが、実際のトレードの場合、だいたいのFX業者は1万通貨単位の取引になりますので、EUR/USDを1万通貨とZAR/JPYを5万通貨の取引にしたりして、できるだけ理論値に近づくように比率に補正します。

この比率で組み入れた”EUR/USD+5*ZAR/JPY”のサヤグラフを個々通貨ペアのボラティリティと比較しながら見てみましょう。ずいぶんボラティリティが抑えられらていることが見てわかります。


   

    V(EUR/USD)=68.867

    V(5*ZAR/JPY)=70.001

    V(EUR/USD+5*ZAR/JPY)=22.859


以上で相関に関してのレポートは終わりますが、注意するところは1つの通貨ペアがファンダメンタル的要因などで長期的に極端に強くなったり、弱くなったりすることは度々起こるものです。そのときにその通貨に絡んでいる相関やボラティリティなどは崩壊してしまいます。そうなって相関関係が弱くなったポジションは速やかに手を引くこということは言うまでもありません。定期的に相関係数などの更新をしてチェックすることが大事です。



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